参議院議員 中曽根弘文
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JC機関誌
「新しい時代の教育理念」
参議院議員 中曽根弘文

 戦後の我が国の教育は、終戦間もない昭和二十二年三月に制定された教育基本法の精神に則って行われてきた。そして、この教育基本法の下に構築された学校教育法を始めとする日本の教育の諸制度は、国民の教育水準を世界のトップレベルにまで高め、我が国の発展に大きく寄与してきた。
 しかしながら、制定から半世紀以上経ち、社会の状況は制定当時とは大きく変化し、国民の意識や価値観も変容を遂げ、教育において重視すべき理念も変化してきた。
 更に、教育全般について様々な問題も生じている。即ち、青少年の規範意識や道徳心、自立心の低下。いじめ、校内暴力、不登校、学級崩壊など学校現場での諸問題。また青少年の凶悪犯罪の増加、そして画一主義などによる没個性化、学習意欲・勤労意欲の低下や、家庭・地域の教育力の低下など、教育は多くの課題を抱え危機的状況にあると言っても過言ではない。
 教育は、国家や社会の将来の発展を左右する、未来へ向っての投資である。もちろん教育基本法を改正すれば教育の問題が全て解決するというものではないが、戦後教育の負の部分が表出し教育の荒廃が大きな問題となっている現在、教育の基本理念を定め、教育の諸法令の憲法ともいえる教育基本法の改正なくしては真の教育改革はなし得ない。
 現在の教育基本法は、戦後民主主義のもとでの新しい教育の推進を目指したものだが、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の干渉のもとで、戦前の国家主義的体制からの転換に主眼が置かれ、日本の歴史的・伝統的風土から乖離したものとなってしまっている。日本人自らの手による日本人の為の基本法となっていない、ということが根本的問題であるが、以下に主な問題点および改正すべき点を挙げる。
  1. 前文や第一条(教育の目的)に「世界の平和と人類の福祉」、「人格の完成」、「真理と正義」など、非常に重要な究極の目標・理念が並べられているが、こういう文言からは「日本という国家の歴史や精神性を帯した日本人をどのように育成しようとしているのか」という最も大切なものが見えてこないこと。
  2. 教育は知育・徳育・体育のバランスのとれたものでなくてはならないが、現在の基本法は知育中心となっており、人間として大切な徳育や体育の面についての考慮が十分ではないこと。
  3. 義務教育に焦点を当てた基本法となっており、高等教育や生涯学習、私学の重要性についての観点が欠けていること。
  4. 国際化の時代を想定したものになっていないこと。
  5. 「個人の価値を尊ぶ」「個人の尊厳」など、全体的に個人が強調され、「公」即ち公共の精神の涵養、「社会の中の一員」という意識を育む認識が希薄であること。
  6. 豊かな心を育むうえで大変重要な「伝統の尊重」や「宗教的情操の涵養」という文言が、GHQの干渉によって日本側の原案から削除・修正させられたこと。
  7. 家庭や郷土を愛すると同様に、自国を大切にし発展を願う自然な心、「国を愛する心」を育むための指導理念が無いこと。
  8. 教育の原点である家庭が果たすべき役割や責任などの記述が無いこと。
  9. 国や都道府県の教育行政の権能が明確でないこと、などの点が、大きな問題点として挙げられる。
 国際的にも重要な地位を占めている我が国には、国際社会をリードし、世界の平和と繁栄を築く一翼を担う大きな責任がある。伝統・文化や社会規範を大切にし、深い教養と品格を有し、創造性豊かで、そして日本人としてのアイデンティティーをしっかりと持った、尊敬される逞しい国際人を育てていかなくてはならない。
 こうした人材を育てるために、新しい教育基本法に盛り込むべき基本的目標として次の四点が挙げられる。
  1. 社会の一員として国家や地域社会の形成・発展に参画し貢献する人材を育てること。
  2. 日本の歴史や伝統・文化を十分に理解し尊重する、教養ある国際人を育成すること。
  3. 日本人としての誇りと自覚を持った自立した心身ともに逞しい日本人を育てること。
  4. 国際社会をリードする創造性豊かな人材(トップランナー)を育てること、である。
 これらの教育の理念的側面を重視して基本法を改正すると同時に、関連の教育の諸法令も必要に応じて改正し、基本法の理念や方針が教育のあらゆる現場に浸透するようにしなければならない。また、「教育振興基本計画」を策定し、教育に関する政策の長期的目標を設定し、行財政措置も含めて施策の総合化、体系化、重点化に努めることが必要である。
 このように教育基本法を改正し、新しい時代にふさわしい教育の目標を明らかにし、かつ従来なかった長期的・具体的な「振興基本計画」を策定することにより、国民に、今後の我が国の教育の目指すものがより明確となる。教育は国民一人ひとりの理解と協力と行動が不可欠であり、その意味で国民的運動を展開する必要がある。日本の再生は教育の再生なしには実現できない。

日本青年会議所機関誌「We Believe」2004年3月号への寄稿文

 


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